斉藤デュオ 《斉藤昭彦&美紀》 〜4月22日のリサイタルを前に
――いつからデュオに興味をもたれましたか? また始められたきっかけは?
斉藤美紀 (以下M)大学時代,2台ピアノのための曲を弾いてみたくて,
友人と一緒に,楽譜を買ったものの,結局,合わせもできずに卒業してしま
いました。ずっと,やってみたい気持ちはあったのですが…単純に考えて,
楽しそうだし,2台ピアノはカッコいいなと(笑)。でも,なかなか機会が
ありませんでした。
ウィーン留学中,私たちは,それぞれソロの曲ばかり勉強していたのです,
ある時,コンクールの資料の中から「ピアノデュオ部門」というのを見つけ
たことがきっかけで,「毎日いっしょに練習できる,今の環境はデュオのた
めにあるようなもの」と,勝手に思い,主人に提案しました。夫婦で,ひと
つのものを作り上げるのもステキかな−と,その時は,合わせの大変
さもわからずに,始めてしまいました。
――ご夫婦で一緒に留学されたのですか?
M はい。「結婚してからふたりで留学」という,恵まれた機会を
得ることができました。
斉藤昭彦(以下A)その頃,私はソロの勉強に,夢中で打ち込んでいた時期
でしたので,あまりデュオには興味がありませんでした。気分転換のつもり
で始めましたが,やっているうちに深みにハマっていきました(笑)。思っ
ていたよりずっと奥が深く,どんどん楽しくなって・・・今では,あの時始めて
よかったと思っています。
――今までデュオを続けてこられてソロとの違いを感じたことはどんなことですか?
M デユオのレッスンを児玉幸子先生に受けた時に「演奏していて自分がう
まく弾けた時は相手に感謝を,相手が上手く弾けなかった時は自分が反省す
ること。」と言われたことが強く印象に残っており,アンサンブルの基本を
学んだ気がしました。今では二人のモットーになっています。
――二人で音楽を作っていくことを実感されたということですか?
M そうですね。
――そして,コンクールに出られるほど深みにハマったわけですね(笑)。
結果はどうでしたか? 急なことで準備も大変だったのではありませんか?
M 留学中の1994年,イタリアで行なわれた「サレルノ国際ピアノコンクー
ル」のデユオ部門で,運良く第1位をいただきました。コンクール中は当然
のことながら,思うような練習はできませんでしたが,コンクール側の配慮
で毎日1時間ぐらいはピアノにふれることができました。お店に置いてある
ピアノだったり,売り物の中古ピアノだったり,一般のお宅に伺って練習さ
せていただくこともしました。その度に,イタリアの人々との触れ合いがあり,
とても貴重な経験でした。
――さて,今回の演奏会について少しお詰を聞かせてください。プログラム
はお二人で考えられたのですか?
A そうです。2台ピアノの作品ばかりを集めました。
――作品の特徴と聴きどころを教えていただけますか?
A 第1部では,多くのピアノ・デュオ作品の中でもピアノ・デュオの特色
がはっきりでている曲,デュオの醍醐味が特に感じられる曲,デュオの王道
を行っているような,偉大な作曲家の傑作を選びました。私たちのピアノ・
デュオに対する姿勢をしっかりと表現したいと思っております。
M 第2部では,第1部と雰囲気を変え,新しい試みを意識しました。あま
り演奏されていない珍しい作品,親しみの持てる楽しい作品,この二つを考
えながら選曲しました。クラシックは難しそうと思われている方々,もちろ
んクラシックが好きな人たちも含め,多くの人たちに,楽しんでいただける
演奏会を目指したいと考えています。特に,ベネット作曲「4つの小品組曲」
や,ベーコン&ルーニング作曲「コールシャトルブルース」は,ジャズやポ
ピュラーの要素を含んだ曲です。自然に体が動き出すように音楽に乗って
いただけたらうれしいです。
――お二人で音楽を作られる時は,どんな方法でされているのでしょうか?
A まず,音楽の流れ,解釈を一致させるために,相手に自分の音楽観をし
っかり伝えることから始まると思います。もちろん相手のパートを含めて全
体の構造を分かっておくということが大前提の話です。はじめに,お互いに
自分をはっきり主張して,合わせてみます。すると,音楽的な感じ方の違い
が,よく分かります。合わないところは,相手に自分の音楽を分かってもら
うために,うたってみたり,メロディだけ全部ひとりで弾いてみたり,相手
のパートを自分なりに弾いてみたり,いろいろなことをやってみます。やっ
ているうちに自分の確認もでき,自分の考えが良くないことに気がつくこと
もあります。お互いの考えが理解できると,自然とどちらかの考えに落ち着
いたり,ふたりでより良いものを見出したりして,合わせはわりとうまく
進んでいきます。
M 音楽的解釈の合わせが,一番難しく,また楽しいところでもありますが,
ピアノ・デュオの大きな課題として,バランスの問題があると思います。4
手で弾くので,一歩間違えれば,ただうるさいだけになってしまいがちです
から,それぞれの声部のバランスを上手にとることも,重要なことだと思い
ます。バランスにはかなり神経を使って曲作りをしますね。
――解釈が合わないこともあると思いますが,どう話し合われるのでしょうか。
また,御夫婦でいらっしやるので,生活に支障をきたすことはありませんか(笑)?
A そうですね。曲作りは大体うまく進むのですが,やはり,どうしても譲
れないところや,微妙なテンポ感の違いなども出てきます。その時は,録音
して,なるべく客観的に聴いてみるようにしています。すぐに結論がでなく
ても,何日かして冷静に聴いてみると,不思議と意見が合うようです。
M お互いにあまり遠慮がなく,ぶつかり合ってしまうので,かなり険悪な
感じになることもありますよ。無言で夕食を食べたこともありましたし(笑)。
でも,一緒にいる時間が多い中で,生活に支障が出てくるのは困るので,
話し合ったわけではないのですが,無意識のうちに,練習は練習と,
割り切るようになってきましたね。
――その割り切りが全てうまくいく秘訣なのですね(笑)。
ところで,毎年妙高高原の夏の音楽祭に出演されているということですが,
詳しく教えていただけますか?
A 妙高高原は,皆さんご存知のように,冬はスキーで賑わう町です。また,
温泉でも有名ですが,夏は音楽の町にしようと,妙高高原池の平観光協会が
主催で,夏の音楽祭が始まったようです。野外ステージでの音楽祭で,皆,
ステージの後ろに連なる山々を見ながら,芝生の上に並べられたイスに座っ
て聴きます。ステージといっても木でできた山小屋風の建物なんですよ。で
も,意外と音響は良く,そして何と言っても大自然の中での演奏と,聴きに
来てくださる方々の暖かさが伝わってきて,とても気持ちよく演奏できます。
避暑地として夏休みをゆっくり過ごすために,妙高高原にいらした方が,
この音楽会で楽しい思い出を作っていただけるよう,デュオのこと,曲のこ
となど,お話ししながら演奏しています。今年の正式な日程は,まだ
決まっていませんが,8月中旬の予定です。
――素敵な風景での演奏が目に浮かぶようですね。最後にデュオの魅力を
お聞かせいただけますか。
A 音楽的にも人間としても,お互いを見つめ直すことが出来,多くの
発見があることでしょうか。
M 二人の力が,倍以上になり,どん,どん可能性が広がっていくことです。
――素敵な御夫婦でのピアノ・デュオの活動をこれからも期待しております。
ありがとうございました。
(『音楽現代』'03/4 より)
♪ 4/22 津田ホール
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